※礼拝説教の前に、村上福音キリスト教会を訪問した三人の姉妹（片山姉、小山姉、笹川姉）の証しがありました。
聖書箇所 ヘブル人への手紙10章19-22節、ローマ人への手紙7章24、25節
19 こういうわけですから、兄弟たち。私たちは、イエスの血によって、大胆にまことの聖所に入ることができるのです。 20 イエスはご自分の肉体という垂れ幕を通して、私たちのためにこの新しい生ける道を設けてくださったのです。 21 また、私たちには、神の家をつかさどる、この偉大な祭司があります。 22 そのようなわけで、私たちは、心に血の注ぎを受けて邪悪な良心をきよめられ、からだをきよい水で洗われたのですから、全き信仰をもって、真心から神に近づこうではありませんか。
24 私は、ほんとうにみじめな人間です。だれがこの死の、からだから、私を救い出してくれるのでしょうか。 25 私たちの主イエス・キリストのゆえに、ただ神に感謝します。ですから、この私は、心では神の律法に仕え、肉では罪の律法に仕えているのです。
今年のバザーの出品物をみんなで確認していたときのことです。ほこりをかぶった茶碗やお皿が結構あったのですが、バザー担当の姉妹からこんな注意がありました。「陶器や漆器は、ぬれたふきんでふいてしまうと、“拭きすじ”が跡に残ってしまい、売れ残ったときにオフハウスに買い取ってもらえなくなる。だから拭くときは乾いた布でふいてください」。そんな細心の注意の甲斐あって、今年のバザーの売れ残りはすべて買い取っていただけたという話ですが、私はふとこう思いました。私たちの生まれつきの心も、きれいにしたようでじつは拭きスジが残っているのではないか、と。
これは聖書ではなく日本人の感覚に基づく話ですが、生まれたばかりの子供の心を純真無垢とたとえたりします。ところが大人になるにつれて悪いことをおぼえたり、心が汚れていってしまうと考える。その汚れた心をきれいにするために禅寺で座禅を組んだり、人によいことをしてあげたり、というのが日本人の信仰心でもあるわけです。つまり何が言いたいかというと、最初はきれいだったがだんだんほこりをかぶって汚くなってしまうのが心であって、それを修行や善行といった「きれいな水」できよめようとする、それが多くの人々の考えではないかと思うのです。しかし人がこれはきれいな水だと思っているようなよい行いも、じつはそうではないのだと言いたいのです。それは、時間が経ってみると白っぽい筋になって残ってしまうようなものに過ぎない。その時は「ああ、いいことをした」と思ってても乾くとかえって汚れが目立つようになってしまうようなものでしかない。その意味で、聖書はすごいことを言っているわけです。それは何かというと、「邪悪な良心」。「良心」って、良い心のことですね。心は目に見えませんが、イメージとして、80%位は汚れていても、（このパーセンテージは人まちまちですが）、20％くらいはその心の中に汚れていない、良い部分があって、それを私たちは良心と呼ぶわけです。
ところが聖書は、その良心でさえ邪悪であるというのです。良心が邪悪であるというのは、あたまのてっぺんからつま先に至るまで、あなたにはいい所ありませんよ、全部汚れていますよと言われているのと同じです。そんなことはない、ボランティアやったり、優しい言葉をかけてあげたりしてます、いつも心をきれいな水でふいていますと言っても、あなた自身がはじめから邪悪だから全然だめですよ、と言われているのと同じです。実際、世の中では生まれたばかりの赤ちゃんのことを「罪のない子供」と言いますが、聖書はかえって「人は生まれながらに罪がある」とも言っています。遠い先祖であるアダムとエバが罪を犯してしまったから、すべての人間は生まれながらに罪を背負っているのだ、と。どちらが正しいのでしょうか。罪なしで生まれてくるのか、罪をもって生まれてくるのか。ただ赤ん坊がいつも泣き叫びながら生まれてくるのは、もしかしたら、自分が生まれたときにすでに背負っている、何かとてつもない重荷とかを彼らは知っているのではないかと考えることがあります。
先ほど、三人の姉妹が村上教会を訪問した証しをしてくださいました。村上教会の牧師は宮本先生、で思い出したのですが、かの剣豪、宮本武蔵は風呂嫌いで有名でした。武蔵は子供の頃、何かの病気で頭のてっぺんに大きな腫れ物ができて、その跡がはっきりと残ってしまった。だから、当時の侍はみんな月代（さかやき）といって頭をキレイにそり上げていたのですが、彼は髪の毛を伸ばしてその傷が絶対に人の目に触れないようにした。そしてお風呂に入るとその頭の傷を見られてしまうので、絶対に風呂は入らない。手拭いをしめらして、体をふくだけ。その傷について知らない人が、「武蔵さん、くさいわあ。なんでお風呂はいらへんの」と聞くと、彼はかっと目を見開いてこう答えた。「身の垢は手桶の水で洗うことができるが、心の垢は洗えるものではない」。それを聞いて人々は、「さすが武蔵、言うことがそこらへんのお侍とはちがうわあ」となるのですが、ただ今でいうコンプレックスだったんじゃないかと思います。彼が剣の道に励んでいったのも、そのコンプレックスを跳ね返そうと必死に生きた結果だったのかもしれません。でも彼のことばは、それが本心かどうかは別として、一つの真理を教えています。それは、人の心の中には、どんな水でも洗い流すことのできない垢がこびりついている、ということです。
使徒パウロは、ローマ人への手紙の中でこんな言葉を残しています。「私は、なんとみじめな人間でしょう。だれがこの死のからだから、私を救い出してくれるのでしょうか」。パウロの手紙は、教会の中で朗読されるための手紙でしたが、人々はこの時「えっ」と思ったはずです。すでに教会のリーダー、大伝道者として生きていたパウロ、そのパウロが「なんとみじめな人間」なんて言ってしまったら、パウロを見倣って歩んでいたその他大多数のクリスチャンたちはどれだけみじめな人間ということだろうか、と。しかし救いというのは、パウロのように、自分がどれだけみにくい人間なのか、汚れた人間なのかと自覚している人々のものです。クリスチャンとして救われたら、「よし、これで俺はもう大丈夫。それに比べて救われていない人たち、みじめだね」ということではないのです。私はみじめな人間だ、だがどんなにみじめな人間でも、イエス・キリストが私のために死んでくださったのだ。そしてこの心は邪悪さにまみれ、この体は老いと死に向かって朽ち果てていくとしても、私は永遠のいのちが約束されている、その確信が信仰です。だからパウロは、「私は、なんとみじめな人間なのでしょう」とため息をもらした後、次にこう告白しているのです。「私たちの主イエス・キリストのゆえに、ただ神に感謝します」と。
先ほどの笹川姉の証しの中で、村上教会の隣に日本最後の即身仏が収められているお寺があるというくだりがありました。即身仏というのはいわゆるミイラになることですが、私が小学生の頃、ある本の中で「即身仏になる方法」というのを読んだことがあります。いったいどんな小学生だと言われそうですが、別に即身仏になりたくて探していたわけではなく、図書館で借りた本にたまたま載っていたのです。その方法をここで伝授するには時間が足りず、また私もあまりおぼえていないのでどのみち伝授できないのですが、そこに書かれていた一行目は、いまでもはっきりとおぼえています。「数年間、木の実だけを食し、からだをきれいにする」。なぜおぼえているかというと、「からだをきれいにする」という言葉が、小学生の目から見ても、現実感のないものであったからです。宮本武蔵ではありませんが、「たとえからだはきれいになっても、心はきれいにならない」、そんなことを考えたと思います。では心をきれいにするにはどうすればよいのか。その答えを、聖書はこう述べています。「心に血の注ぎを受けて、真心から神に近づこうとすること」。イエス・キリストが十字架で流してくださった血潮だけが、私たちをきよめることができます。それを受けた者は、それまで神に背中を向け続けた人生から、自ら神に近づく者へと変えられていきます。
なぜそのように変わっていくのでしょうか。イエスの血潮を受けるとは、イエスが十字架で死なれたのは私のためだと信じることです。そしてそれは今まで気づかなかった神の愛がわかった瞬間だからです。神はこんな私を愛してくださる。神に作られた者なのに神から離れ、神を拒んできた私のために命を身代わりとしてくださったイエス・キリスト。天を見上げながら、「父よ、彼らをお許しください」と叫んだその叫び。「彼らは何をしているのか自分でもわからないのです」と、まずご自分から許してくださったその許し。私の中にある罪、私を支配する罪の原理がイエスを十字架につけました。しかしイエスを信じ、イエスに近づくものは罪から解放されます。なぜなら、その人はイエス・キリストのものとされたからです。キリストは、たとえ私たちがどんなに汚れた者だとしても、喜んで私たちをご自分のものとしてくださるお方です。
今年のバザーの売れ残りは、オフハウスのスタッフが全部引き取ってくれました。査定がめんどくさくなって、結局全部持っていってくれたのかもしれません。しかしイエスはめんどくさいからではなく、私たちの罪をすべてご存じのうえで、「あなたはわたしのものだ」と語りかけてくださいます。十字架に打ちつけられた釘の跡がまだ生々しい手のひらを私たちに向けながら、あなたはわたしのものだと両手を広げて私たちを抱きしめてくださいます。私たちの邪悪な良心は、拭きスジも残さぬまでに、イエスの血潮できよめられました。私たちはそれを信じるだけでよいのです。そうすれば罪を悔い改め、永遠のいのちを受け取ることができるのです。どうか、お一人お一人がその、命をかけた招きに答えてくださいますように。
